監視カメラで使うレンズ基礎知識

こんにちは。ZMSのhimeshimaです。 私はこれまでカメラ関連の開発を経験してきましたが、監視カメラについてはキャッチアップしている最中です。そこで今回は監視カメラに使われているレンズについてまとめることにしたいと思います。

レンズマウント

レンズ交換式のカメラを使っている人には馴染みのあるレンズマウント。ポチポチとあるのが電子接点であり、これを通してカメラとレンズは電気的に接続されます。カメラの電源が入ると、電子接点を通してレンズに電源供給され、カメラと通信することが可能になります。レンズにはMCU(マイクロ・コントロール・ユニット)があり、レンズ制御を担います。ズーム、フォーカス、アイリス等の制御指示がカメラからレンズに対して送られます。ところがこのような形式は監視カメラでは一般的ではありません。レンズ交換式のカメラでお馴染みのマウントを採用している機種もありますが、一部に限られるようです。

私が所有するレンズ交換式カメラのマウント部とレンズ接合部

監視カメラで使われているレンズマウント例

マウント規格元外径 [mm]内径 [mm]フランジバック[mm]レンズ固定方法電子接点採用例
C-25.4017.526ねじ式なし多数
CS-25.4012.50ねじ式なし多数
D1414ねじ式なし多数
M12 (別名S)12規定なしねじ式なし多数
EFCanon65.0054.0044.00バヨネット式*ありAXIS Q1659
ESONY58.0046.1018.00バヨネット式*ありSONY SNC-VB770

*バヨネット式とはレンズ交換式カメラでよく使われる、カメラとレンズ双方に固定用の爪があり、回転させると固定される方式のもの

C/CS/D14/M12 といったマウントは電子接点を持っておらず、レンズ制御方法は以下の3つに大別されます。

type1.操作不可(固定条件での動作)。例:固定フォーカスなど

type2.レンズ外側のリングやねじを使った手動のマニュアル操作

type3.レンズ外部に制御用の配線が出ており、接続先のカメラ側からの電動操作

続いてレンズの機能毎に整理していきます。

ズーム

光学ズームはレンズを動かすことによって、焦点距離を変化させ、ズームイン(望遠)、ズームアウト(広角)する機能のことです。監視カメラではズームレンズではなく、バリフォーカルレンズを使うことが多いようです。ズームレンズは、焦点距離変更時でもピント位置が移動しない設計になっていますが、バリフォーカルレンズは、ピント位置が移動してしまいます。ズーム移動の度にフォーカス調整が必要になりますが、コスト面やF値の向上等のメリットがあるため使われているのでしょう。バリフォーカルレンズを使うことで光学ズームが可能になり、画質劣化が起きないメリットがあります。しかしバリフォーカルレンズ採用モデルであっても、PTZはデジタルPTZのみの対応という機種があります。この場合、PTZにおいて光学ズームは使用されません。 PTZ(パン・チルト・ズーム)とはレンズを縦横に移動させたり、ズーム指示を遠隔から行える機能のことです。光学ズームを行うかの違いでメカニカルPTZとデジタルPTZがあります。デジタルPTZでは元の解像度の画角の中から指定した画角を切り出し、その範囲をデフォルトの画角として縦横移動をしたり望遠側へデジタルズームをすることで疑似的に PTZ を行う機能となります。

ズーム制御方法

1.マニュアル操作
  a. レンズ外側のリングやねじを使った手動操作
  b. リモート指示によるカメラからの電動操作

フォーカス

ピント(焦点)を合わせる機能のことです。マニュアル・フォーカス(MF)とオート・フォーカス(AF)に分類されます。両方に対応する機種の場合、MF操作するとAFが無効になる仕様(再度AFを使う際にはAF機能の有効化設定が必要)が多いようです。監視カメラではAF + MFの混在モードで動かしたいケースが基本的にないためこのような仕様にしていると思われます。

フォーカス制御方法
1.固定フォーカス
  a. フォーカス調整機構を備えていないため操作不可

2.マニュアル・フォーカス(MF)
  a. レンズ外側のリングやねじを使った手動操作
  b. リモート指示によるカメラからの電動操作

3.オート・フォーカス(AF)
  a. AF有効時、カメラからの電動操作

アイリス

レンズに取り込む光量を調整する機能のことで、「絞り」とも呼ばれます。この絞りの大きさを数値で表したものをF値と言います。図で示すと理解しやすいです。

アイリス制御方法
1.固定アイリス
  a. 絞り調整機構を備えていないため操作不可
   屋外などの光の条件が変わる環境には向いていません。

2.マニュアル・アイリス
  a. レンズ外側のリングやねじを使った手動操作
   自動調整ではないので設置時の調整の状態のまま使用されます。屋外などの光の条件が変わる環境には向いていません。

3.オート・アイリス
撮影環境の明るさに応じてカメラとレンズが連携して自動で絞りを調整します。しかし強い光が当たる明るい撮影環境では、アイリスの開口量が問題で画像がぼやけてしまうことがあります。Pアイリスではこの問題に対処しています。
  a. DCアイリス
   カメラ側よりコントロール信号が供給され、絞りを駆動します。
  b. VIDEOアイリス
   カメラ側より電源とビデオ信号が供給され、ビデオ信号と、設定された信号レベル差を増幅して絞りを駆動します。
   レンズ外側のつまみにより感度調整と測光方式の選択が可能です。
   現在はあまり採用されていないようです。

4.Pアイリス (Precise Iris)

Pアイリスは自動で正確な絞り制御が可能で、スウェーデンのAxis Communicationsと日本の興和株式会社によって開発されました。 Pアイリスは、Pアイリスレンズに加え、モーターと特殊なソフトウェアからなっています。 このシステムは自動絞りレンズの欠点に対応し、コントラストや鮮明さ、解像度、被写界深度を向上させています。
強い光が差す場所では、Pアイリスは絞りを閉じる量を制限して、絞りこみすぎるときに起こる画像のぶれ (回折)を避けています。 このぶれは、DCアイリスレンズとピクセルが小さいメガピクセルセンサーを組み合わせたカメラでよく起こります。 絞りを自動的に調整すると同時に、回折を避けられる点で、屋外の映像監視アプリケーションには非常に大きなメリットがあると言えます。

https://www.axis.com/ja-jp/learning/web-articles/lenses-for-network-video-cameras/p-iris

Pアイリスの効果
・より深い被写界深度
・取り込み画像の絞り位置固定
・回折防止
・光学性能改善
・NDフィルター不要

https://www.kowa-optical.co.jp/security/products/day_night_megapixel.html

Axis以外にもhikvision、Cisco等の一部製品でPアイリスが採用されています。

おわりに

今回は監視カメラ向けレンズのマウント、ズーム、フォーカス、アイリスといった基本的な要素について見てきました。プロダクトによってサイズやレンズ構成、オートフォーカス方式といった違いは当然ありますが、他のカメラ製品と共通する部分も多いです。プロが映画やCM撮影に使うものと同じ画質のものが監視カメラに求められることはほぼないでしょう。ユーザーにとって価値あるプロダクトを産み出せるよう、監視カメラ固有の要件など業界の動向を学び、開発に生かしていこうと思います。

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